子供のやる気を上手に引き出し、なんらかの結果を出させてあげることは、全教育者の悲願であるといえます。 親も同様でしょう。
事実これまでに、そのことに関するさまざまな方法論が語られ、現在も新しい方法論が生み出されています。
そこで今回の記事では、子供のやる気を引き出し、結果を出させてあげるために、コーチングではどのようにアプローチをするかということについて書いていみたいと思います。
人はどんなときにやる気が最大になるか
人はどのようなときにやる気を出すのでしょうか。
答えは実に単純です。
やりたいことをやっている時にこそ、人のやる気は最大になります。
実は、やりたいことをやっているときの状態は、やる気があるという表現もそぐわないほど、それをやることが当たり前になってしまいます。
具体的に説明しましょう。
人間は当たり前のように呼吸をしています。
生命維持を前提とすれば、呼吸はどうしてもやりたいことであると言えるはずです。
だからこそ人間は、あえてやる気をだすまでもなく極めて自然に呼吸を行います。
この場合、呼吸へのやる気が高まっているという言い方には違和感を感じるのではないでしょうか。
人はどうしてもやりたいことがあれば、やる気があるという表現ではそぐわないほどに勝手にそれをやってしまうということです。
ちなみにコーチングでは、心からやりたいことのことを want to と呼びます。
have to とクリエイティブ・アヴォイダンス
一方、本当はやりたくないのにやらなくてはならないことを have to と呼びます。
この状態では、人間はパフォーマンスを発揮することができません。
実際にやりたくないことをやっているとき、人のやる気は著しく低下し、できるだけそれをやらなくてもいい状況を作り出そうとします。
このような心の働きを創造的回避(クリエイティブ・アヴォイダンス)といいます。
やらなくてもいい状況を極めて創造的に作り出してしまうのです。 たとえば、いじめにあってしまい、どうしても学校に行きたくない子供がいたとします。
その子が朝起きて学校に行こうとすると、お腹が痛くなり、動けなくなるというような話があります。
また、宿題として提出しなければならないプリントが見つからなくて、学校に向かうことができない、といったことが起きたりもします。
これらの例は、子供にとって have to になっている、いじめっ子のいる学校に行くことを避けるために、子供自身がクリエイティブ・アヴォイダンスを行っていると考えることができます。
want to は爆発的な生産性を生み出す
人は want to でものごとにあたったとき、どのくらいの生産性をあげるのでしょうか。
アメリカの『フォーチュン』誌が年に一回発行、編集するリストであり、アメリカの企業を総収入に基づいてランキングしたものに、フォーチュン500というものがあります。
そのフォーチュン500の企業を対象に、ハーバードビジネススクールとアメリカのコーチング機関であるTPIがある試算を行いました。
その試算によると、やりたいことを自由にやれる文化の企業のほうが、そうではない企業に比べ、実に756倍の利益率を叩き出したのだそうです。
want to のパワーが産み出した数字であると言えます。
もうひとつ具体例をあげましょう。
かつて指導していた子供の例です(守秘義務があるので、話の詳細は大幅に変更しています)。
その子は当初、勉強を落ち着いてすることが難しい状況でした。
まず机に座ることができないし、かろうじて座ったとしてもすぐに立ち上がり、部屋を飛び出すということが何度も繰り返されました。
しかし、時間をかけながら話をし、勉強をすることが自分にとってのwant to であるというマインドが出来上がると、人が変わったように勉強に打ち込むようになりました。
見ていて頼もしいほどに、能動的に勉強に取り組むようになったのです。 当然ながら、成果もどんどんとあがっていきました。
このように、人は want to の時にこそやる気を発揮し、極めて高い生産背を達成できるのです。
want to はゴールを考えることで見えてくる
さてそれでは、ものごとが want to か have to かはどのように決まるのでしょうか。
実はwant to か have to かはゴールによって決定されます。
心から達成したいゴールがまず前提としてあり、そのゴールを達成するためにやることを want to であると考えるのです。
これは考えてみれば当たり前で、達成したいゴールに近づくことがやりたいことであるのは自明でしょう。
たとえば、先ほどの子供の例を考えてみましょう。
その子供に与えた指示は、心から入学したいと思える中学校を探しなさいというものでした。
そのためにいろいろと資料を集め、たくさんの人の意見を聞き、実際に学校を巡るといった行動をとりました。
そしてその結果、自分はここに行きたいという確信を持てる学校が見つかりました。 その学校に入るには、試験を受けなければいけません。
入学のために必要なのが日々の勉強であるという認識が出来上がった瞬間、憑き物が落ちたように勉強に主体的に取り組むことができるようになったのです。
この例からもわかるように、want to について考えるということはゴールについて考えるということなのです。
ゴールは自分で決める
その際に大切なのは、ゴールは必ず自分で決定するということです。
よく陥りがちなのは、子供がゴールを決めているようで、実はそのゴールは親や指導者が誘導したものであるというパターンです。
子供は素直ですから、そのゴールがまるで自分のものであるかのように適応しようとします。
しかし、いくら子供が素直であっても、自分をだますことはできません。
いかに親や指導者が上手にゴールを与えても、そのゴールが子供にとって心から達成したいものでなければ、それに向かっていこうというやる気は湧いてこないということです。
当然のことながら結果を出していくこともできません。
ゴールはできるだけ大きいものにする
また、ゴールはできるだけ大きなものにするということも大切です。
先ほどの例では、どうしても入りたい中学校を選んだということでした。
しかし、実はその選択の前には、将来どんなことをやりたいかという話からはじまり、大学、高校、中学はどのような学生生活を送りたいかを考える段階がありました。
その際には制限をかけず、できるだけ大きなゴールを考えていきます。
世界中をまたにかけた翻訳者になるのもいいですし、ハリウッドで活躍する女優になるのもいいでしょう。
そして、そのためにどんな充実した学生生活を送るか、と考えていきます。 大きなゴールは、大きなエネルギーを生み出します。
何に対するエネルギーかと言えば、いまこの瞬間に行動をとっていくためのエネルギーです。
ゴールが大きく、心から達成したものであるからこそ、日々 want to なことに取り組んでいくための巨大なエネルギーが生まれてくるのです。
子供の場合は小さいゴール設定から
とはいえ、子供にいきなり将来の大きなゴールを設定することに難しさを感じるかもしれません。
そこから逆算していまの want to なことを考えていくことに対しても同様でしょう。
たしかに、いきなりそういったことを子供に考えてもらうことは難しいかもしれません。
どうすればいいでしょうか。
小さなゴールであっても自分で決めて達成のために行動をするという一連の流れを子供に習慣づけるのがおすすめです。
こどもに対していきなり大きなゴールを決めなさい、というのではなく、「今日はどんな日にしたい?」と聞き「じゃあどうするの?」と尋ね、「きっとできるよ」といってあげる日々を送るということです。
ここでは、その内容がどうであるとか、実際に達成できたかということは重要ではありません。
そういったことへの親の評価は一切必要ありません。
自分でゴールを設定し、それに向けて行動するというサイクルを子供の中に作ってあげることが重要なのです。
それが習慣になってくれば、やがて大きなゴールについてもしっかりと語り合うことができるようになるはずです。
まとめ
この記事では、子供のやる気と結果を引き出すために必要なことを説明しました。
ゴールを設定し、その達成に必要なwant to なものを見つけることが大切であるということでした。
まずは小さなものでもいいので、自分でゴールを設定し行動する習慣をつけてあげることからはじまるということでした。
参考にしていただけると幸いです。