世の中にはさまざまな成功法則があります。
仕事で成果を出すためのものであったり、人間関係を円滑に進めるためのものであったり、究極的には幸せになるためのものであったりと、実にさまざまです。
私はよく「いったいどの成功法則ががいいのですか」と尋ねられます。
具体的な方法がたくさんあって、何を拠り所にすればいいのかわからないのでしょう。
そこでこの記事では、そのような成功法則にあふれた現代で、私たちは成功法則をどのように捉え、扱っていていけばいいのかについて書いてみたいと思います。
成功法則
成功法則にはさまざまなバリエーションがあります。
たとえば、
・できるビジネスマンは少食の人が多い、だから少食になりましょう
・よい経営者であればあるほど、腰が低く、物腰が柔らかいものだ
・「ありがとう」という言葉を何度も繰り返し唱えせば、幸せになれます
・会社を発展させたいのならトイレを掃除しましょう
などといったものです。
実にたくさんの種類があるこういった成功法則ですが、突き詰めるとこれらはすべて、
「◯◯すれば、うまくいく」
というものです。
本当にこれは正しいのでしょうか。
成功法則への誤解
よく考えてみればわかると思いますが、誰のどのような状況に対しても正しいといえる「◯◯すれば、うまくいく」というものはあり得ません。
少食にしてもビジネスでうまくいかないことだってあるだろうし、「ありがとう」をいくら唱えても不幸せな人もいるでしょう。
能力がずば抜けて高い経営者の中にも、高慢な鼻持ちならない人もいます。
また、トイレが汚くても会社が発展することだってあるはずです。
そもそもの話、この世の中で確定的なものは何一つありません。
あるのは確率として高いか低いかの問題だけであり、「必ずこうなる」という状態が作り出せないことは、科学的にも明らかにされています。
よって、上記の成功法則は、
・少食の人の方ができるビジネスマンである確率が高い
・よい経営者ほど、腰が低く、物腰の柔らかい人が多い
・「ありがとう」という言葉を何度も繰り返したほうが、幸せになれる確率が高い
・トイレがきれいな方が会社が発展する確率が高い
と言い換えられるべきなのです。
もちろん、その根拠やどのくらいの確率かまでしっかりと説明される必要があります。
完全情報への憧れ
実際には、成功法則について書いてある本も、明示的、暗示的に「絶対ではないが確率は高い」という表記をしているのかもしれません。
しかし、これは読み手の問題ですが、どうしても「必ずうまくいく方法」を欲しがってしまい、ついついそこに絶対を見出してしまいます。
人間は、そもそもが不完全な世界に生きる不完全な情報処理システムであるので、本能的に完全なものを求めてしまうという性質があります。
だからこそ、「◯◯すれば、うまくいく」といった成功法則を求めてしまうのです。
ほどほどの参考程度にするくらいならばいいでしょう。
しかし、ついのめり込んで妄信し、極端な行動に出てしまったりすることがあります。
たくさんのお金をつぎ込んでしまったり、迷惑がられても肉親、友人、知人等に熱心に勧めて回るなどといった行動です。
あるいは逆に、うまくいかないと感じ始めると「この成功法則は完全に間違ってる、騙された」などといって全否定に走ったりもします。
その場合も懲りたわけではなく、次なる「完全な」成功法則を求め、さまよい続けることになります。
さて、このように、人間の完全情報への憧れという抗しがたい性質に基づいたこの問題を、どのように考えればいいのでしょうか。
二つの世界観
まずは自分の世界観を確認するところから始めましょう。
世界観とは、あなたが世界をどのようなものとして認識しているかのことをいいます。
コーチングの大家、ルー・タイスは、世界観には大きく二つのあり方が存在すると述べました。
一つは、ニュートン的世界観です。
そしてもう一つは、ホワイトヘッド的世界観です。
ニュートン的世界観とは、神が作った完全な世界(a perfect world)があり、人間はそれを壊そうする存在であるという世界観です。
そこでは、そもそも物事は固定的であり、変化することは一時的なものでありその本性ではないと考えられます。
一方で、ホワイトヘッド世界観とは、この世の中は変化することこそが常態であり、流動的なものであるという世界観(a dynamic world)です。
物事は流動的であり、世界は神と人間が共に想像していくものとして認識されます。
ルー・タイスは後者の世界観を採用しましょうと言っています。
だからこそ私たちは変化・成長する無限の可能性があると考えられるようになるからです。
完全な成功法則などない
さて、この世界が流動的なものであるということは、完全なものはないということも同時に言えるはずです。
さきほども書きましたが、このことは、科学的にも証明されています。
完全なものがない以上、完全な成功法則もないということになります。
このような知的な理解を通し、成功法則に完全を求めること自体がナンセンスであるという態度を自分の中に作ることで、いたずらに成功法則に依存してしまうこと自体を避けることができるでしょう。
また、完全な成功法則がないと腑に落ちれば、かえって成功法則の上手な使い方が見えてきます。
アティチュードを作り込む
誰がどう考えても間違っているような成功法則であれば論外ですが、多くの成功法則はそれなりに頷けることを述べているものです。
だったら、それを完全否定してしまうのも考えものでしょう。
とりあえず、まずは試しに成功法則をもとに行動してみればいいでしょう。
そしてその結果、想定通りの展開となればよしとします。
しかし、想定外の展開がとなることもあるでしょう。
ここが重要です。
そもそも完全な成功法則がないのだから、想定外になること自体驚くことでもなんでもありません。
普通に「ある」ことなのです。
その上で、「この成功法則をこの場面で私が用いると、このような結果がでてくるという情報が得られてよかった」という解釈を与えていきます。
コーチングの用語で「特定の出来事に対する感情的な反応の傾向」のことをアティチュード(attitude)と呼びます。
成功法則を用いて想定外の展開が現れたとしても、「新しい情報が得られて喜ばしいことだ」とか、「なるほど、この成功法則はこういう場合は当てはまらないのだな、知れてよかった」などというように、アティチュードを上手に作り込んでいけば問題ありません。
それどころか、想定外の事態を上手に切り抜けられるマインドが育つ、絶好の機会になるのです。
エフィカシーを上げる
とはいうものの、成功法則を用いても期待通りの展開とならなかった場合は、たじろいでネガティブな情動が湧いてくることは無理もないでしょう。
エフィカシー(self-efficacy)という概念があります。
コーチングの中で使われる際には「ゴール(goal)達成のための自己の能力の自己評価」のことを指します。
この概念は、もともとアルバート・バンデューラという心理学者によって形式化され、それをルー・タイスが自身のコーチングの理論の中に組み込みました。
エフィカシーが高ければ、失敗をしても立ち直るのが早いと言われます。
想定外であるとは、すなわち失敗をしたということです。
しかし、ゴールを設定し、そのゴールを達成する能力が自分にはあるのだという確信、すなわちエフィカシーが高ければどうでしょうか。
仮に成功法則が思うような展開を生まなかったとしても、一時的に湧くネガティブな情動をはねのけ、先ほど述べたようなアティチュードを無理なく選択することができるでしょう。
つまり、上手に成功法則を利用していくためには、エフィカシーを上げていけばいいということもわかります。
望ましいアティチュードを選択し、エフィカシーを上げれば、成功法則に振り回されるのではなく、成功法則を自分のケースにうまくあてはめながら、前向きに活用することができるはずです。
まとめ
成功法則に絶対を求め、振り回されてしまう人に向けて書かれた記事でした。
そもそも世界は流動的なものであり、絶対的なものはないと深く認識をした上で、自分に合わせて上手に活用すればいいということでした。
そのために、望ましいアティチュードを選択し、エフィカシーを上げればよいということでした。
参考にしていただけると幸いです。