「毒親」という言葉をご存知でしょうか。
「毒親」とは、スーザン・フォワード著『毒になる親』という本から由来する言葉であり、その定義は「子どもを自分の思い通りにしようとし、なかには暴力や虐待、過度の干渉などによって支配下に置こうとする親のこと」となります。
この「毒親」に現在進行形で悩まされていたり、後遺症に苦しんでいる人は大変多いと聞きます。
そこで今回は、「毒親」と「毒親」にまるわる問題について概括したのち、それらの問題にコーチングができることを提示したいと思います。
毒親とは何か
毒親とはどういう親のことをそう呼ぶのかは確認しました。
「子どもを自分の思い通りにしようとし、なかには暴力や虐待、過度の干渉などによって支配下に置こうとする親」
このような親をそう呼ぶのでした。
暴力、性的なものも含む虐待などにより、子供を支配下に置き、コントロールすることを想像するのは、そんなに難しくないでしょう。
しかし、親の干渉によって子供をコントロールすることが、「毒親」と呼ばれなければならないくらいにひどいものだとはなかなか感じにくいかもしれません。
どんな親だって、子供のためを思えばこそ干渉もするし、結果的に正しい方向へとコントロールすることだってあるだろう、そう思われる方もいるでしょう。
しかしながら、親のそのようなコントロールが親の過剰で個人的な感情に基づき、繰り返し執拗に行われたとしたらどうでしょうか。
いくら子供のためを思った行動だとうそぶいたとしても、現実問題としてある段階からは単なる押し付けになります。
そのような押し付けを浴びながら育てられた結果、子供にはさまざまな問題が起こるようになります。
毒親によってもたらされる問題
毒親に育てられた子供には、どのような症状が現れるのでしょうか。
『毒になる親』には以下のような記述があります。
一人の人間として存在していることへの自信が傷つけられており、自己破壊的な行動を示す
スーザン・フォワード『毒になる親』(p11〜)
具体的には、自分の意思をはっきりと表明できない、常に周囲の評価が気にしてしまう、他人との親密な関係を築きにくい、ものごとを極端に考えてしまう、自分を軽んじるような行動に出るなど、いくらでもあげられます。
毒親に育てられた場合の対策
さて、『毒になる親』では、毒親に育てられた人がどのようにすべきかについて、以下のようなやり方を示しています。
- 現在の思考パターンを変えていく
- 現在の感情に向かい合う
- 親と対決する
現在の思考パターンをを変えるとは、毒親によって刷り込まれたものの見方を変更していくということです。 現在の感情と向かい合うとは、鬱積した怒りや悲しみの感情を認識し、それを開放していくということです。 親との対決とは、自分がされてつらかったこと、悲しかったことなどを伝えたり、今後どのようにしてほしいか伝えたりすることです。
こういった作業を繰り返すことで、毒親の呪縛を断ち切っていくということが推奨されています。
コーチングでは毒親をどう考えるか
コーチングでは毒親をどのように考えるのでしょうか。
なぜ親は子供を過剰にコントロールするのか、という疑問です。
それは、親自身にゴールがなく、あるいはあってもエフィカシーが低いからである、と考えます。
順番に説明しましょう。
ゴールとは本人が心から達成したいことのことを言います。
コーチングにおいては、このゴールを何よりも重視し、それぞれがそれぞれのゴールを達成していくための人生こそがハッピーなものであると考えます。
毒親のように過剰に子供をコントロールする親はゴールを失っている可能性が考えられます。
なぜなら、親自身にゴールがあり、それを達成するような人生を過ごすことができているのならば、そういう親は子供にも子供のゴールがあることを認め、それを尊重することができるはずだからです。
その意味で、毒親のゴールは自分のゴールを持てずにいると考えられます。
エフィカシーとは、自分のゴールを達成するための自己の能力の自己評価のことです。
ゴールを達成する自信、くらいに理解しておけば良いでしょう。
毒親であっても、こういうことができたらいいなあ、と感じることはあるかもしれません。
しかし、このエフィカシーが低いため、そんなゴールを持ったって自分には達成できっこない、とはじめからあきらめてしまうのです。
となると、結果的にゴールを持たない状態と同じになってしまいます。
このように、親がゴールを持たず、持っていたとしてもエフィカシーの低い状態だと、その状態が親の通常の状態になってしまいます。
この、心理的に慣れ親しんだ状態のことを、コーチング用語ではコンフォートゾーンと言います。
ゴールがない状態がコンフォートゾーンになってしまっている人間は、そばにゴールを持ってそれを目指している人間が現れると落ち着かなくなります。
その結果、その人を自分のコンフォートゾーンに引きずり込むような行為を無意識でとってしまうのです。
生まれてすぐの子供は、自分のできないことに物怖じせず、いろいろなことを身につけていきます。
つまり、コーチング的にいえば、ゴールを設定し、高いエフィカシーを維持しながら達成していく、まさに理想的なコーチング的ライフスタイルの体現者なのです。
ゴールを失った親からすれば、自分のコンフォートゾーンを乱される難い存在となります。
もちろんこれは、無意識レベルで起こることなので、親の意識にはあがりません。
コンフォートゾーンを乱す子供をなんとか自分の引きずり込むために、正当化するような理由をつけ、子供をコントロールしようとするのです。
あなたが心配なのよ、あなたのためなのよ、などという言葉はその典型でしょう。
ほんとうに子供のことを思うのなら、子供がゴールを設定し、新しいことにチャレンジしながら自分の人生をクリエイトしてけるようなマインドを作ってあげるべきでしょう。
しかしながら、ゴールがなくエフィカシーの低い親はそれができないのです。
そういった親を毒親と呼びます。
コーチングは未来へと働きかける
毒親に育てられた人は、どのようにしていけばよいのでしょうか。
コーチングから考えるアプローチは以下の通りです。
まず、『毒になる親』で推奨されているやり方を概観して見ましょう。
上にあげたやり方は、いずれも過去や現在に働きかけるものになっています。
実はコーチングでは、そのようなやり方は一切推奨しません。
コーチングでは、時間は未来から現在に流れる、と考えます。
未来がだんだんと近づいて現在になり、今この瞬間は遠い過去へと流れていく、そのような時間観を採用しているのです。
だからこそ、どんどんと遠ざかる過去へ働きかけることは不毛であると考えます。
それどころか、現在を含む過去へと働きかけることで、ますますそれにとらわれてしまうリスクを示唆するほどです。
もちろん現状把握として、現在や過去を分析することは問題ありません。
実際にコーチングセッションにおいてコーチは、クライアントの現在、過去のすべてを観察します。
しかし、当事者が過剰に過去や現在を分析し続けることで、本来一番注目すべき未来がないがしろになり、かえって現在や過去にとらわれる可能性を忘れてはいけないのです。
だからこそ、コーチングの基本スタンスは未来に働きかけるということなります。
未来へ働きかけるとはゴール設定をすることである
未来に働きかけるとはどのようなことをいうのでしょうか。
コーチングではその作業のことをゴール設定と言います。
まず心から達成したいゴールを設定し、それを本気で追求する生き方を作り上げる、そのことを徹底的に行うのです。
毒親に育てられた人は、自分にとって重要なものを選択するという生き方を奪われてしまっています。
毒親からのコントロールが執拗に繰り返される中で、毒親の評価軸がまるで自分の評価軸であるかのように思い込まされてきたからです。
しかし、自分の意思でゴールを設定し、自分にとってのゴールに必要なものはいったい何か、という生き方を続けていると、自然の毒親の評価軸は消えていきます。
ということは、現在の思考パターンや、現在の感情は結果的に消えてしまうということです。
親自身との対決も無理にやる必要すらなくなってくるかもしれません。
自分のゴールにとってどうでもいいことは忘れてしまうからです。
このように、自分の心から望ましい未来をクリエイトしていくことで、過去や現在を一気に吹っ飛ばしてしまうような人生を作っていくのがコーチングなのです。
*ゴール設定に関する詳しい方法は以下の記事を参考にして下さい 「コーチング理論から考える正しい目標設定の方法」 「コーチング理論から考える一歩先に進んだ目標設定の方法」
注意
念のために書いておきたいのは、コーチングは医療行為ではないということです。
繰り返された過剰な毒親のコントロールの結果、PTSDが発症しているなどというように、明らかに病状が見られる場合は医者の力を借りるべきでしょう。
なにもコーチングが万能のツールであると言いたいわけではありません。
とはいえ、医療行為とコーチングは決して矛盾するものではなく、上手な併用の仕方があるはずだと考えます。
まとめ
毒親とは、ゴールを持たず、子供を自分のコンフォートゾーンに引きずり込むような親のことであるということでした。
毒親によって自分の評価軸を失って苦しんでいる人は、本物の自分のゴールを設定することから現在や過去を変えていくことがよい、ということでした。
参考にしていただけるとうれしいです。