この記事を書こうと思ったきっかけは、あまりにも子供の心をないがしろにしている事態が多すぎると感じたことです。
とりわけ勉強を指導するような場面では、ほとんどが子供の心をないがしろにしているように見えます。
そもそも人間の心を扱うためには、それ相応の知識と技術が必要です。
残念なことに、そういった知識と技術がない大人が、子供の心を扱う立場になっているケースが非常に多いのです。
結果として、子供が非常に深刻なダメージを受けることになります。
この記事では、子供の心を扱うという概念を独立して考えられるようになることを世の中に提案し、子供の心を上手に扱うにはどのようにしていけばいいのかについて書いてみたいと思います。
人をコントロールする一番簡単な方法
唐突ですが、人をコントロールするために一番簡単な方法はなんだかお分かりでしょうか。
それは相手の恐怖を利用することです。
たとえば、何かこちらの提案を受け入れてもらいたいことがあったとしましょう。
そしてそのことは、どう考えても相手にとって利益もなく、相手もそのことはわかっていたとします。
通常なら到底提案が通るとは思えません。
確かに、ストレートにそのことを提案したとしても、すげなく断られるのがオチでしょう。
しかし、相手の恐怖という情動をうまく使えば提案が通ってしまうのです。
あまりにも危険なので詳細は書きませんが、実はこのように、相手を恐怖で支配していうことを聞かせるような技術は世の中にたくさんあります。
そのほとんどは表に出てくることなく、一部の人が知っているだけにすぎません。
しかし、センスのある人は、誰かに習うことなくある程度そういった技術を再現できてしまうことがあります。
また、そこまで洗練された技術ではなかったとしても、普通の人がいつの間にか恐怖を使って相手を支配するようなアプローチを取っている場合も多くあります。
いずれにせよ、そのような恐怖で相手をコントロールする技術が世の中に存在し、意識的にせよ無意識的にせよそれを用いて対人関係に臨んでいる人たちがいる、ということを理解してください。
ある子供の例では
数年前に指導していた子供の話です(守秘義務があるため、話の詳細は大幅に変更しています)。
出会いと印象
中学受験へ向けて学力向上のため、家庭教師として来てほしいという依頼でした。
はじめて会ったその子は非常に物静かで、聡明な印象でした。
実際に話してみると、第一印象の通りの子で、小学生にしてはしっかりとした受け答えのできる、いわゆる優等生的なタイプでした。
とはいえ、融通がきかないのかといえばそういうわけでもなく、時には冗談を言ったり、好きなゲームやテレビ番組の話を楽しそうにしてくれるという側面もありました。
不思議な兆し
しばらく指導を続けているうちに、ある不思議な兆候が見られることに気がつきました。
指導をする内容に関しては、本人に決めさせていたのですが、ある特定の範囲だけは決してやろうとしないのです。
はじめのうちは気がつかなかったのですが、その他の範囲に繰り返し取り組んでいるのを見ているうちに、その範囲だけぽっかりと穴のようになっていることに気がついたのです。
変だなと感じた私は、何気なく「その範囲はやらないの?」と話を振ってみました。
すると、一瞬の間があって、「その範囲はいらないと思う」という答えが返ってきました。
体が震える
数週間後、どうしてもその範囲をやらなければならないという事態が生じました。
その必要性を話し合い、あまり気の進まなさそうな様子でその範囲の勉強を開始しました。
後ろから様子を観察していると、その子がガタガタと震えだしていることに気がつきました。
頭をかきむしり、貧乏ゆすりをし、息をぜえぜえと切らしながらぶつぶつと何かをつぶやいていました。
私はすぐにその範囲の勉強をやめさせ、話を聞くことにしました。
真相
結論からいえば、その子はかつて、その範囲ができないことを徹底的に責められたという経験がありました。
本来ならばその子が苦手としている範囲を導く役割の大人に、これでもかというくらいに責められたのです。
非常に辛くみじめで、恐ろしい気持ちを味わったそうです。
それでもなんとかその範囲をできるようにならなければと思い、一生懸命取り組んだそうです。
そして、いったんはある程度の成果をあげることができたので、その大人から叱責されることはなくなったそうです。
しかし、あるころから、その範囲に取り組もうとするとどうにも嫌な気分が湧いてくるようになりました。
その範囲をより深く学ぼうとすると、体がしんどくなってしまい、どうしても避けるようになってしまったのです。
もちろんその大人は、子供がその範囲をできるようになってほしいという思いがあり、怒りと共に本人を糾弾したのかもしれません。
しかし、動機が正しいから許されるというものではありません。
このように子供が苦しい思いをしている以上、その大人がとった対応はどう考えても間違っていたのです。
恐怖で子供をコントロールすることのツケ
この例からわかることは、恐怖で相手をコントロールすることはできても、その効果は短期的なものであるということです。
さらにたちが悪いのは、取り返しのつかないような心の傷を与えることにもなりかねないということです。
実際に先の例の子供は、たまたま私と話をすることができたので発覚したのですが、この例が氷山の一角であることは容易に想像できます。
昨今の教育事情
たいへん問題なのは、学校、塾、家庭教師、親などの間で、恐怖を利用して子供にいうことをきかせるという方法論が当たり前のように横行しているという事実です。
そしてそういう人に限って、子供のためを思って厳しく接しているのだうそぶくのです。
「この学校に受かりたいのならこのくらいやらないと危ないぞ!」とか、「こんな勉強量で成績があがると思ってるのか、寝る時間がないくらいやれ!」といわれたという報告がよくきかれます。
残念ながらそういった指導者達は、心を正しく扱う知識、技術がないにもかかわらず、熱意だけが空回りしている状態です。
さらにうがった見方をすれば、ほんとうに熱意があるのかどうかも怪しいと言わざるをえません。
「この子がいうことをきかなければ親の私の立場がない」、「この子の成績が上がらなければ教師の私の評価が落ちる」、「この子が入試に失敗したら、塾の評判が落ちる」など、どうにも自分のためとしか思えないような動機に基づいているような例がたくさん見られるからです。
知識、技術のなさを棚に上げ、恐怖を使ってでも子供をコントロールすることを正当化しようとする例はあまりにも多いのです。
親や教師には同情すべき点もある
しかしながら、そういった指導的立場にある大人たちにも同情すべき点はあります。
心を扱う正しい知識、技術を学ぶ機会があまりに少ないどころか、それらが独立した領域として存在するという共通認識が存在しないからです。
学校の先生にしても、塾や家庭教師の先生にしても、ましてや親にしても、心を正しく扱う知識、技術を学ぶことなくその役割につくことができます。
教師は、担当する科目の具体的な内容については審査されても、心を正しく扱うことについて審査されることはないからです。
親も同様でしょう。
だからこそ、本来ならば正しく心を扱うプロが担当するべき領域を、現場にいる親や教師達が受け持たざるを得ないという事態が生じているのです。
現場で子供と接している大人たちの苦労はここからくるものであるといえるでしょう。
子供の心を正しく導くために
さてそれでは、子供と接する際にはどのようなことに気をつければいいのでしょうか。
コーチングの重要なプリンシプルとして、すべての意味のある永続的な重変化・成長は内側からはじまり、外側へと広がっていくというものがあります。
つまり人が変わるときには、まず内側の心の変化があった上で、外側にある世界が変わってくるということです。
たとえば、子供が勉強をできるようになるということは、まず子供自身が勉強ができるとう自信、勉強ができるようになりたいという確信を持つ段階があり、その後実際に勉強ができるようになっていくということです。
ということは、いくら勉強を熱心に教えたとしても、子供自身の心が変わっていかなくては不毛な作業になってしまう可能性が高いということです。
また、さきほどの例でも明らかなように、恐怖を用いて子供をコントロールすることは、子供の心に甚大なダメージを与えるので絶対にやってはいけないということもわかります。
このように、コーチングの理論を用いてうまく子供の成長を促してやることは可能です。
もちろんコーチングが心を正しく扱う唯一のツールだとは言いません。
しかしコーチングの理論は、子供の心を正しく導く方法論がしっかりと確立されているため、子供の心を守るためには極めて有用なツールであると言えます。
子供の心を守るための文化
子供の心を守るために今後どのようにしてけばいいのかについて書いてみましょう。
まずは大前提として、心を正しく扱うという領域を、子育てや科目ごとの勉強の指導と切り分けて考える文化をつくる必要があります。
現在では、親や教師たちが現場レベルで子供の心に対応せざるをえない状況です。
正しい技術や知識を持たぬままそういった事態に直面しているため、大人と子供お互いにとって不幸な状況が続いているのです。
だからこそまずは、子供の心を正しく扱うという領域があるのだ、という共通認識を大人の間でつくるべきでしょう。
その上で理想的には、子供を指導する立場の人間はみな心を正しく扱う技術、知識を学ぶことが必須であるという文化をつくるべきです。
知識と技術を学ぶということであれば、コーチングの理論を学ぶということが極めて有用です。
そうは言っても、親や教師が子供の心を正しく扱うのはなかなか難しいという場合もあるでしょう。
たしかに、何年も勉強を重ねてはじめて教師になるのと同様に、心を扱う専門的な知識や技術も一朝一夕で身につくものではありません。
そういう場合は、「親、教師、コーチ」のように、それぞれの専門領域をきちんと分け合ったチーム体制をつくるべきでしょう。
子供が受験をするという場合を考えてみると、具体的な科目ごとの勉強はそれぞれの教師が担当し、生活におけるケアは親が担当し、心を正しく導く指針をコーチが打ち出すということになります。
このようなチームができれば、それぞれがそれぞれにしか受け持つことのできない専門性を発揮しつつ、子供の心を守りながら正しく目標達成へと導いていくことができるでしょう。
まとめ
この記事では、子供の心を守るために必要なことについて書きました。 現在では、正しく心を扱う領域があるという事実が認識されていないことが一番の問題であることを指摘しました。
その上で、子供の心を守るためには、心を正しく扱う専門家との連携プレーが必要であると結論を出しました。
参考にしていただけると幸いです。